ポテトとサルバドーラ

海外文学の読書感想文

『黄色い雨』フリオ・リャマサーレス

とにかくこわい話だった。人口が流出していく山奥の小さな村で、だんだん独りぼっちになっていく恐怖、自分以外の最後の人間だった妻の頭がだんだんおかしくなっていく恐怖、死んだ人間の幽霊が当然のように家の中や村の中をうろうろしている恐怖、餓死寸前で隣村に行くも人間の非情に打ちのめされる恐怖・・・とにかくさまざまな孤独と恐怖がぎゅうぎゅう詰めになった物語で、一人で夜中に読めたもんじゃない。 

黄色い雨 (河出文庫)

黄色い雨 (河出文庫)

 

 書き出しから、「~であるだろう」という推測の文末が繰り返され、とても違和感がある。語りが推測の文末でしかできない理由は段々分かってくるのだが、この変な感じによって入りからぐっと引き付けられる。

 

文庫版の紹介文には「奇跡的な美しさ」と評されたとあるが、確かに本作にはちょっと他では感じたことがないような独特の静寂があり、川と崩れた教会の情景は夕日のきらめきと共に実際に見たんじゃないかと思えるほど鮮明に覚えている。ただ、そういった美しさの記憶よりも、亡霊のシーンがあまりにも怖くてトイレに行けなくなったことの方が印象として大きい。

 

アイニェーリェ村は実在した村であるそうだ。過疎地に住む身分としては、おとぎ話というよりは差し迫ってくる具体的な危機として、とても他人事には思われない話だった。